1.2 発音方式の違いと比較 ローズ、ウーリツアー、ハモンド等

本日も「音なLABO」へようこそ

シンセサイザーの歴史ハードウェア編、第2回目となります。
前回は、ムーグシンセサイザー登場までをご紹介しました。

1.1 テルミン~ムーグ

現行の電子楽器は、ムーグ以降のシンセサイザーの発展と言って過言ではありません。
しかし、歴史の中でシンセサイザーとは違った歩みをすることになる電子楽器たちも存在しました。
それらは「電子ピアノ」、「電子オルガン」という形で現代では定着しています。
今回は、発音方式の違いなどからシンセサイザーとの比較、考察を行っていきます。

1 シンセサイザーの仕組み

改めてムーグシンセサイザーに至るまでの技術的な経緯をおさらいしておきましょう。
発電機を発振器に利用していた「テルハーモニウム」は音源形式に正弦波の加算合計を用いました。
(この形式は後述する電子オルガンのハモンドに継承されます。)
その後、真空管の発明とフィードバック回路により発振器が小型化されました。
小型化された発振器により、発音方式はヘテロダインを経て減算方式へと移行します。
減算方式は、「FM音源」、「PCM音源」などのデジタル時代に至るまで活躍するいわゆる「アナログシンセサイザー」の発音方式です。
この減算方式を採用し、VCA、VCF、VCOという電圧で全てをコントロールする画期的な方式を搭載したのがムーグでした。
VCA(Voltage Controlled Amplifier)とは、電圧で音量を調節することです。
VCF(Voltage Controlled Filter)とは、電圧で音色を変化させることです。
VCO(Voltage Controlled Oscillator)とは、電圧で音高を制御する発振器です。
これらに、ADSRを生成するEG(Envelope Generator)と、ビブラートやAM変調の為のLFO(Low Frequency Oscillator)を加えたものが基本的なアナログシンセサイザーの仕組みとなります。
(上記に関しては、深堀記事を制作予定)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/a/ab/VCO.png
VCOの回路例 Wikipediaより

2 ハモンド 電子オルガン

1929年、技術者で発明家のアメリカ人ローレンス・ハモンドによって電子オルガンの草分け的存在である「ハモンドオルガン」が発明されました。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7e/Hammond_b3_con_leslie_122.jpg/300px-Hammond_b3_con_leslie_122.jpg
ハモンドオルガン Wikipediaより

音源形式は正弦波の加算合計となります。
最初の方式は光学式、その後トーンホイールによる正弦波発生装置による方式、現在ではLSIによる発振方式へと変化していきました。
同時代に電子オルガンは、テルミンによって「リズミコン」、ドイツのベルテらによって「リヒトトン・オルゲル」が開発されました。

回転式スピーカー「レスリー」と一緒に使用されることが一般的で、現代までジャズからロックといった幅広いキーボーディストに愛用されています。
このころのシンセサイザーがモノフォニック(単音)なのに対して、早い時期からポリフォニック(複数音)化に貢献し開発されました。

上記のような特徴が並べられますが、この時代のハモンド最大の特徴は「小型化」に成功したことにあるでしょう。
もともと「オルガン」という楽器は、教会などに置かれた「パイプオルガン」という巨大な楽器の再現として開発されました。
音源形式を継承することになった「テルハーモニウム」にしても、その巨大さから汎用的に使用されることはありませんでした。
ハモンドの小型化はこういった問題の解決となり、広く人々に親しまれることになりました。

3 ローズ、ウーリツアー 電気・電子ピアノ

前述した「パイプオルガン」の再現、小型化が電子オルガンであったように、ピアノの再現、電気的な音量の増幅を担ったのが「電気・電子ピアノ」です。
発音を機械的に行い、電気的に増幅した電気ピアノの代表格が「ローズ」ピアノです。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7e/Fender_Rhodes.jpg/250px-Fender_Rhodes.jpg
ローズピアノ Wikipediaより

ローズピアノは1940年代にハロルド・ローズによって開発されました。
金属製音叉の一方をハンマーで叩き、電磁ピックアップで電気信号に変換する方式でエレキギターに近い方式です。
音源方式が直接的な電気的発振ではないため、一般的に「電気ピアノ」に属されています。
(余談ですが、サウンド的には後発のデジタル式シンセサイザーでの再現が容易であった。)

また1947年に、リードの振動を電気的に増幅させる方式の電気ピアノが開発されました。それが「ウーリツアー」です。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/80/Wurlitzer_Electronic_Piano_200A%2C_Museum_of_Making_Music.jpg/270px-Wurlitzer_Electronic_Piano_200A%2C_Museum_of_Making_Music.jpg
ウーリツアー Wikipediaより

その当時はそれぞれの特徴的な音色から、ローズはフュージョン、ウーリツアーはロックと使い分けるミュージシャンも多くいたそうです。
(クロスオーバーが盛んな現在では、必ずしもそういった枠にとらわれる必要もなくなりました。)

まとめ

 

開発当初は、シンセサイザーもオルガンやピアノの再現を目標としていた面もありましたが、上記のようなそれを専門とした方式とは別のユニークな音として進化していきます。
そしてこのような電子オルガン、電気・電子ピアノもまた、オリジナルのパイプオルガンやピアノとは違った音として発展していきます。
やがてその個性的な音は、デジタルシンセサイザーの時代に再現の的として吸収され機能していくこととなります。