2.3 これからの音響技術 FFT、グラニュラ、サイドチェイン

本日も「音なLABO」へようこそ

コンピュータモデリングの時代と銘打ちまして、シンセサイザーの歴史ソフトウェア編、第3回目となります。

前回までに、ソフトウェア化するシンセサイザー、進化する音源方式に関して、ご紹介しました。

2.1 DTMの幕開け MIDI、VST等
2.2 VA音源、物理モデリングへ

今回は、これからの音響技術と現在の複雑化する技法に関して、考察していきます。

1 FFT 音の解析と応用


FFT(Fast Fourier Transform)とはあらゆる周期的な波動(ここでは音波)は正弦波(いわゆるサイン波)の足しあわせで表現が可能という特性を利用し、周波数ごとの成分に分解することです。
???な用語ばかりなので簡単に言い直しますと、どんな音でもサイン波をたくさん重ねることで作り出すことができますよということになります。
(補足として「周期的」とは、ある一定の時間(例えば5秒間)に区切り、繰り返すと想定すると全てOKということになりますので、ここではあってないようなものです。)

ではこれを利用すると、どんなことができるのでしょうか。
いくつかの応用を考えることができますが、まず顕著なのがイコライザーです。
フィルターの応用と違い、音を周波数ごとに変更することができますので、録音時や演奏時にハウリングを起こしてしまう周波数のみを抑えることができます。
また、これと逆の方法を利用するならば、現実の音とかけ離れたサウンドを作りだすことができるようになります。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/LandMap_Max_patcher.jpg/300px-LandMap_Max_patcher.jpg
ビジュアルプログラミング言語 MAX Wikipediaより
※MAXなど、一部の音響処理プログラムでは、オブジェクトとして簡単にFFTを利用することができる。

他にも、既に録音済みの音源から、スネアドラムの音域にだけディレイかけてダブのようなサウンドにする、一定の部分にのみフィルタをかけるなど応用例はアイディアの数だけ実現可能ということになります。

2 グラニュラ 現代のピッチシフター

 

ラニュラ合成、もしくはGranular Synthesisとも言われ、音を物凄く短い(約1msec~10msecほど)粒に切り出し、音の成分を変化させるものです。
イデア自体はヤニス・クセナキスによって1950年代には提唱されていました。

音の粒(グレイン)を長く取るとスライサーのようなサウンドに、短くとるとドローンのようなサウンドを聞くことができます。
このグレインを短くとり、音に変化を与えることによってピッチシフトをさせることができます。

ピッチシフトの基本的な原理は、切り取ったサンプルを遅くすることで音を低くする、また逆の方法で高くするというものです。
(レコードなどで回転数を遅くすると、音が低くなる原理と一緒です。)
しかし、この方法では音の波形が変化してしまうことで、音程の変化と同時に音そのものが変わってしまう現象が起きます。
(補足ですが、楽音(楽器の音)はほとんどがエンベロープ(音を発生させてから減衰する変化値)によって決まりますので、波形が変化すると音の個性が失われます。)

ここで、「グレイン」を使うことにより、波形の変化を防ぎつつ音程を変えることが可能になりました。
また、逆の方法を応用することで、音程を変えることなく音の速さを変更(BPMを早くしたり遅くしたり)することも可能になりました。

但し、独特なドローンサウンドをまとっている為、使う場面には慎重にならざる負えない部分も否めません。
実際、ある種のエフェクター的な使い方や、SF的な効果音などに使用されるなど、やや飛び道具的に使われる場面を目にします。
(現在ではコンピュータ処理がかなり高速化したこともあり、安価にリアルタイムで使用することが可能になりましたので、今後の活躍の場に期待したいところです。)

3 サイドチェイン 複雑化するパラメーター

 

サイドチェインとは、ある音のレベルを検出し、そのパラメーターを使用し他の音に変化を与える仕組みのことです。
具体的には、バスドラムが鳴っている間はベースの音を下げるなどの応用が考えられます。
この仕組みは、ダッカーと呼ばれるエフェクタで館内放送のナレーションが入ってきたときのみBGMを下げる、ディエッサーと呼ばれるエフェクタでボーカルの「サ行」をおさえるなどで古くから使用されてきました。


※この曲中で、バスドラムが鳴った直後全ての音量が一度下がるのがお分かりいただけるだろう。

音を「パラメータ(数値)」として扱うことは、コンピュータの得意分野であり、この数値の取り扱いはコンピュータによって更なる複雑化がされることと予想されます。
(入力と入力を掛け合わせたり、他のデータを使用してパラメータを変化させたりと可能性とアイディアの組み合わせは無限です。)

まとめ

 

上記にご紹介した技術も、やはりコンピュータの出現により可能となった(特に高速でデータを処理できること)技術の一つでした。
ここに、一旦の電子音楽の進化と発展をまとめましたが、これからも多くのアイディアと技術の進歩により新しいサウンドが生み出されていくことでしょう。