【深堀】電子楽器の名機たち(随時更新)

本日も「音なLABO」へようこそ

前回までに、シンセサイザーの歴史ハードウェア編

1.1 テルミン~ムーグ
1.2 発音方式の違いと比較 ローズ、ウーリツアー、ハモンド
1.3 日本3大メーカのそれぞれ DX7、M1、TR808

次に、シンセサイザーの歴史ソフトウェア編

2.1 DTMの幕開け MIDI、VST等
2.2 VA音源、物理モデリングへ
2.3 これからの音響技術 FFT、 グラニュラ、サイドチェーン

そして、これらに加えて番外編をお届けいたしました。

3.1 サンプラー 録音と再生 メロトロン~MPC
3.2 エフェクタによる音響処理技術

今回は、これまでにご紹介しきれなかった、電子楽器の歴史的な名機について一部解説など行っていきます。

1 オンド・マルトノ


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/thumb/c/c6/Ondes_martenot.jpg/200px-Ondes_martenot.jpg
オンド・マルトノ Wikipediaより

1928年、フランス人の電気技師であるモーリス・マルトノによって発明された電子(電気)楽器です。
発音形式はテルミンと同じヘテロダイン方式ですが、テルミンよりもいくらか音のバリエーションは増えています。
(ビブラートをかけたりすることができます。)

この楽器が独特だと言われれている所以が二つあります。
一つは、リボンコントローラによるポルタメント奏法を可能にしたことです。そしてもう一つが、独自のスピーカーシステムを持ち合わせていたことです。
それぞれメタリック、パルム、プランシパルと呼ばれるバネやシンバルを装置に組み込むことで独特なサウンドを表現しようとしました。
オンド・マルトノはこの仕組みから、後の世で「スピーカも楽器」と呼ばれることとなりました。

2 RCAミュージック・シンセサイザー


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3b/RCA_Mark_II_Sound_Synthesizer.jpg/337px-RCA_Mark_II_Sound_Synthesizer.jpg
RCAミュージック・シンセサイザー Wikipediaより

1955年、RCAブリストン研究所にてハリー・オルソンによって開発されました。音響合成、演奏、トラックダウンに至る工程を賄う今日のワークステーションの元祖であるといえます。
また、この世で初めて「シンセサイザー」の名を冠した電子楽器でもあります。アナログシンセサイザーの基礎を築き、初期DTMの音源による演奏と同程度のスペックを持ち合わせていました。

大量の真空管を使用して構成されており、パンチテープによってデータの保存を行っていました。
FM変調によるビブラートをかける、一部デジタルによるシュミレートなど、エレクトロニクス技術の粋を駆使して当時としては驚異的な音響表現を可能にしていました。

そして有名なエピソードとしては何を隠そう、かのロバート・ムーグが当時在籍していたコロンビア大学に置かれていたRCAミュージック・シンセサイザーを参考に、後のムーグ・シンセサイザーを開発したことが知られています。

3 ブックラー・シンセサイザー



※ブックラー・シンセサイザーの生みの親、ドン・ブックラーによるコメント動画。

1964年に、ドン・ブックラーによって開発されました。1965年にムーグが登場する前年ということになります。
音源方式はムーグと同様の減算方式を採用し、コードでパッチを繋ぐ方法も酷似しています。
また、この当時の課題であったシンセサイザーの小型化にも、一歩先を出た形のモジュラータイプとなっており、このことにより持ち運びを可能にしました。
(当時はシンセサイザーは巨大すぎて基本的にはスタジオに常設されていました。)
この後に、アープがARP 2500というモジュラータイプのシンセサイザーを開発し、一連の流れとなっていきます。

キーボードとは違い、決められた音階を割り振られていない為、自由に周波数設定を行うことができるタッチ・ボードが採用されていました。
そして、(初めて)アナログシーケンサーが採用され、スプリングリバーブなどの装置も付けられた、現在にも繋がるシンセサイザーの仕組みが集約された楽器と捉えることもできます。


※ブックラーの解説動画。このように、現在でも音響関係者の興味の対象となっている。

4 アープ オデッセイ


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/13/Odyssey1.jpg/250px-Odyssey1.jpg
アープ オデッセイ Wikipediaより

アープと言えば、ムーグ最大のライバルです。先のムーグ・シンセサイザー発表の後、アープはモジュラータイプのシンセサイザーARP 2500」を開発しました。
そして、ムーグがコンパクトタイプのシンセサイザーミニムーグ」を発表するやいなや、アープが開発したのがこの「オデッセイ」です。

その後に続くこの両者の熾烈な戦いは、現在におけるシンセサイザーの演奏楽器としての機能を充実させることになります。
このことにより、アナログシンセサイザーの進化はほぼ完成へと近づき、現在の形へと集約されていきました。

5 フェアライトCMI


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/ed/Fairlight.JPG/200px-Fairlight.JPG
フェアライトCMI Wikipediaより

現在で言うところの「サンプラー」の礎を築いた初代的な存在です。
その他にも、モニターに直接ライトペンで書きこんで音響合成編集ができたりと、これまた現代の波形編集に繋がる概念を持ち合わせた名機でした。

その正体は、元々グラフィック用に作られたコンピュータ「カーサル」に、サウンド・ボード、サンプリング用のADコンバータなどを付与していき、音楽用のシンセサイザーとしてカスタムされたものでした。
これを、1979の時点で完成させていることに驚きを隠せません。後続に「イミュレーター」というサンプリング方式のシンセサイザーが出現し、これに強い影響を与えました。
そして現在ではこの影響は、PCM音源、サンプラー、コンピュータミュージックの諸々機能へと拡大しております。
(因みに、余談となりますがシンセサイザーの標準的なプリセットである「オケヒ(オーケストラヒット)」が作られたのも、このフェアライトCMIからです。)