1.1 アナログシンセシス

本日も「音なLABO」へようこそ

第二章で「音響合成の基本」を解説するにあたり、本章ではシンセサイザーの基本的な仕組みを解説いたします。

今回は、シンセサイザーの中でも、主に電気回路の話になります「アナログシンセシス」に関しまして説明いたします。

1 VCO、VCF、VCA

 

アナログシンセサイザーの基本的な構成として、VCO、VCF、VCAというものが存在します。この基本的な構成を兼ねそろえたシンセサイザー「ムーグ」が登場します。

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それでは、その構成要素であるVCO、VCF、VCAを一つづつ解説していきましょう。

・VCO
VCO(Voltage Controlled Oscillator)とは、電圧で音高を制御する発振器のことを指します。
原理は、電気の電圧を上げ下げすることで、音を生成する「発振器」の周波数を変える仕組みとなっています。

まず基本的な話しとなりますが、音の高さを決める要素とは、音の振動(発音体から空気の振動を通じて鼓膜に入るまでの空気の揺れ)の周波数(その空気の揺れがどのくらいの速さで揺れるか)で決まります。
その空気の揺れ(すなわち周波数)が速ければ速いほど、音は高く聞こえます。固有の周波数を司る「発振器(人工的に音の波を作り出す装置)」により、音を作り出します。
その発振器を、電気の電圧制御(電圧を使って発振器が作り出す波を変化させること)することが、VCOの目的となります。

例えば、いわゆるピアノの音階で言うところの「ラ」というものは440Hz(ヘルツ:周波数の単位)で、発振器に440Hzの振動が発生するようなな電圧を与えてあげてみます。するとその発振器から発せられる音は、私たちの感じるところの「ラ」の音になります。
(音階には固有の周波数がそれぞれ存在しますので、その周波数を割り振ることでいわゆる「ドレミファソラシド」という音階を作ることができます。)
申し遅れましたが、周波数というのは1分間で何回振動されるかのことで、440Hzとは1分間に440回振動する音のことを言います。
(ということは、周波数ごとに区切るのであれば「ドレミファソラシド」よりもっと自由な音の変化を与えることができるということになります。)

このVCOの仕組みにより、キーボードをインターフェイスとしたいわゆる「西洋音階」による演奏を実現しています。
また、リボンコントローラやジョイスティックなどにより、ポルタメントや細かいビブラートをかけるといった演奏も、VCOによるパラメーター制御で可能になっています。
因みに、VCO回路が考案されるまでは音階ごとに発振器を取り付けなければなりませんでした。

・VCF
VCF(Voltage Controlled Filter)とは、音色を変化させる為に「フィルター」という装置を音に通しますが、その際の様々なパラメーターを電圧によって制御する仕組みのことを言います。

この「フィルター」にはいくつかの種類があります。
・ローパスフィルター…高い周波数を遮断し、低い音だけを通します。このことで、低音の効いた太いサウンドを作ることができます。また、レゾナンス(共鳴)を加えることで、シンセサイザーに独特の「ミャオン」という音を付加することができます。
・ハイパスフィルター…低い周波数を遮断し、高い音だけを通します。このことで、より高音を強調した金属音のような音を作り出すことができます。
・バンドパスフィルター…ローパスフィルターとハイパスフィルターを組み合わせたもので、ある一定の周波数のみを強調させることができます。

上記のようなフィルターのそれぞれの数値を、電圧によってコントロールしていきます。
例えば、ローパスフィルターのどのぐらい以上の音を切る(カットオフ)のかを決めたり、レゾナンスをどれぐらい強調するのかといったものになります。
これらを全て電子回路で操作することで、VCFを実現しています。

・VCA
VCA(Voltage Controlled Amplifier)とは、電圧で音量を調節すること仕組みのことを言います。
いわゆる「アンプ(アンプリファイア)」のことです。アンプは言い換えるならば、最終的な音量の調節を電圧によって制御する電子回路となります。
これ自体は非常に単純な装置に聞こえますが、この「電圧で音量を制御」する仕組みは、後述の「LFO」や「AM合成」にとって重要な部分でありますので、一旦頭の中に入れておいてください。

2 LFOとAM合成

 

LFO
LFO(Low Frequency Oscillator)とは、低周波を生み出す発振器のことです。低周波とは、具体的に言うと大体1~19Hzの周波数のことを差します。
これは、人間の可聴域(聞くことができる音の範囲)が20Hz~20000Hzぐらいだと言われていいるので、それ以下の周波数ということになります。
(実際音としては聞こえませんが、音量を上げると振動として体で感じることはできます。)

前述の説明通り、LFO自体では人間が聞き取ることはできませんので、音として何の意味もありません。しかし、これを音に加えることで、ある音の現象が発生します。それが音の「うねり」です。
例えば、440Hzの音にこのLFOで作り出した1Hzの振幅を加えてみましょう。すると音にゆっくりとした「うねり」が加わります。
では、10Hzにしてみたらどうでしょう。わりと早いうねりが音に加わります。このうねりを音響合成的に言うと「トレモロ」効果ということになります。

この音の「うねり」すなわち「トレモロ」は、正確に表現すると音の大きさが周期的に上下したことになります。つまり、音量が滑らかに大小の変化しているということです。

・AM合成
AM(Amplitude Modulation)とは、振幅による変調を意味します。???これだけでは何のことだかさっぱりませんので、一旦前述した「LFO」についての説明から発展させて解説いたします。

さて、低周波を生み出す発振器「LFO」ですが、その低周波の意味するところは大体1~19Hzだと説明いたしました。では、試しに19Hzの振幅を音に加えてみましょう。
音の「うねり」が速すぎて、何やら音自体が変化したように聞こえないでしょうか。(因みに19Hzの振幅を加えると、1分間に19回の音のうねりが加わることになります。)
更に早い周期の振幅を与えてみましょう。その音の変化は顕著になりますね。これが振幅による変調を意味し、すなわちシンセサイザーにおける「AM合成」ということになります。

AM合成によって音が変調されると、その音に様々な周波数成分が加わることになります。この音にフィルタなどで周波数を部分的にカットすることで、アナログシンセサイザーの「音色」を決定することができます。

3 EG


EG(Envelope Generator)とは、音にエンベロープを与える為にADSR値を決定し、付加する装置のことを言います。

この「ADSR」とは、それぞれ下記に記すAttack、Decay、Sustain、Releaseの頭文字となります。
・Attack…音の「立ち上がり」を意味し、演奏が開始された時点(ピアノであれば鍵盤を押した瞬間)から最高音量までの到達時間を設定します。(この値が0であると、オルガンのように押した瞬間から最高音量になります。ピアノやギター、打楽器などほとんどの楽器は0ではないが時間設定は瞬時ということになります)
・Decay…音の「減衰」を意味し、AttackからSustainまでに要する時間を設定します。(ほとんどの楽器はAttackの上り方と反比例した直線で減衰していきます。)
・Sustain…音の「減衰後の保持」を意味し、Decay後に演奏が持続している間の音量を設定します。(これが最大になると、オルガンのように音量が変わらない持続音になります。)
・Release…音の「余韻」を意味し、演奏が終了した時点(ピアノであれば鍵盤を離した瞬間)から音が消えるまでの時間を設定します。(リバーブのようなものと捉えることができます。)

これらを駆使して、より楽器らしい音を演奏時に奏でることができるようになります。
(当然この逆もしかりで、通常の楽器ではありえない設定をすることで、電子楽器の本領とも言える聞いたことのないユニークな音を生成することもできます。)

まとめ

 

大まかに言うところのアナログシンセサイザーで出すことのできる音の仕組みは、上記のようになります。
(当然のようにこの他にも、エフェクター等を駆使すればバリエーションに富んだサウンドを生成することができます。)

音響合成の基礎にて、サイン波だけではなく、矩形波三角波などについても解説していきます。