3.2 エフェクタによる音響処理技術

本日も「音なLABO」へようこそ

ここからはシンセサイザーの歴史、番外編となり第2回目をお送りいたします。

前回は、録音と再生の技術に着目し、サンプラーの歴史についてお届けいたしました。

3.1 サンプラー 録音と再生 メロトロン~MPC

今回は、音を劇的に変化させる音響処理技術「エフェクタ」について、考察していきます。

1 最初期のエフェクタ

 

エフェクタの原点とも呼べる、最初期の音響処理技術はラジオの為に開発されました。
「コンプレッサー」という、音量のバランスをとる目的で作られた装置でした。コンプレッサーの仕組みは、音量の大きいものは抑え、小さいものを底上げすることで適切な音量の放送にすることでした。

この原理を逆に使用することで「ノイズゲート」と呼ばれる、小音量のノイズを除去する為のエフェクタが生み出されました。
また、コンプレッサーの大きい音量を抑え込む機能のみのエフェクタを「リミッター」といいます。

これらは、しだいに録音などの音響処理の現場へと活用の場を広げることとなります。
そして現在にまで続く、エフェクタを独自のサウンド構築の手段として扱うことが定着していきます。

2 音の現象と電子回路への応用

 

音の現象はとても興味深く、いつの時も人々(特に、波動を扱う物理学者達)の注目を集めてきました。
例えば、救急車のサイレン音が近づくにつれて変化する現象は、ドップラー効果として知られています。
そのドップラー効果を応用して作られたのが、回転式スピーカー「レズリー」です。
レズリーはスピーカーそのものが回転することにより、音に変調を与えることができます。このことにより、独特な「揺れ」のあるサウンドを表現することができます。

ある時レコーディングエンジニアが、オープンリールで録音していた際にテープを遅らせてダブリング(音の重ね)をしていました。
この時、独特なフィルタをかけたような音が発せらました。(後にフランジング効果と呼ばれるサウンド)それを模して作られたのが「フランジャー」というエフェクタの始まりです。
また、前述の「レズリー」をシュミレートしようとして作られたのが「フェイザー」となりました。
(結果的には、フェイザーも独自のサウンドを追求する方向で使われ、現在ではレズリーシュミレータという別のエフェクタが存在しています。)

元々、ホールや教会などの残響音をシュミレートする目的で作られたのが「リバーブ」です。
初期のリバーブは、プレートエコーと呼ばれる巨大な鉄板を使用したものや、スプリングリバーブと呼ばれるばねを利用したものでした。
後に、BBD素子の発明により「ディレイ」が開発されると、それを使ってリバーブを再現する方向へとシフトされました。
(現在のリバーブは救数のディレイ音、つまり反響の塊で構成させる設計となっております。)

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/48/Reverb-3.jpg/250px-Reverb-3.jpg

スプリングリバーブ Wikipediaより

 

このように、独特な音の現象を研究し、それを音響の現場へと持ち込む為の装置が開発されました。
そして技術の進歩と共に小型化され、現在のエフェクタと呼ばれる電子回路の塊へと変貌を遂げていきます。

3 シンセサイザーからの抜粋

 

電子回路の発達により、シンセサイザーの一部分がエフェクターとして利用されたものもあります。

シンセサイザーLFO低周波を発生させる電子回路)により、音を周期的に変化させることが可能になりました。
この原理を応用して、音量に揺らぎを与えるのが「トレモロ」です。また、フランジャーはディレイタイムを周期的に変化させ、原音にミックスする仕組みとなっています。
(このディレイタイムが長いと、人間の可聴認識で複数の演奏者がいるように聞かせることができ、エフェクタの「コーラス」となります。)

シンセサイザーの音色を変化させるVCF、すなわち「フィルタ」もまたエフェクタとして利用されています。
ローパス、ハイパス、バンドパスなどはシンセイサイザーと同様の使われ方をします。そして、バンドパスフィルタを応用して作られたのが「イコライザー」となります。
(因みに、バンドパスフィルタの周波数をフットペダルでコントロールするのがギターでお馴染みの「ワウワウ」です。)

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/77/Moogerfoogers.jpg/220px-Moogerfoogers.jpg
Moogerfooger Wikipediaより
※シンセイサイザーから抜粋されたエフェクタの中で有名なのがこのMoogerfooger。ムーグシンセの電子回路がそのまま使われている。

 

ややシンセサイザーの歴史の中では番外編的に語られがちである「ボコーダー」というものもあります。
これは、人間の声と同じ周波数特性を楽器の音に持たせることで、しゃべっているような音に変換するものです。
これと似たような発想の「トーキングモジュレータ」というエフェクタですが、仕組み自体は全くの別物となります。
(但し、音の音色を決める倍音成分を調べると、どちらも非常に似ています。)

4 シュミレーションによる音響処理

 

最近では、ビンテージのアンプをシュミレートした「アンプシュミレータ」などもエフェクタとして登場しております。
このことにより、安価でビンテージサウンドを手にすることが可能になりました。
(特に、ギタリストやベーシストなどアンプによりサウンドが変化する楽器のプレーヤに重宝されています。)
また、ビンテージのスピーカーやマイクを模倣したシュミレータなども存在しています。

シュミレーションの分野で最も興味を持たれている一つに、ステレオイメージ、3D音響というものがあります。
ステレオイメージとは、左右の音のパンニングなど音の動きを疑似的に組み込む仕組みのことです。
バイノーラル録音によって録音された音源をヘッドフォンで聞くと、リアルに音の位置変化を認識できるなどが有名)
3D音響は、その名の通り音を立体的に表現する技法です。映画の音響などではお馴染みとなっております。
(古くは4チャンネルスピーカーを使用した立体音響などがあります。)

そして、現在のDTMおよびDAW技術により、エフェクタはコンピュータ上でシュミレートされることとなります。
各種VSTによってユーザーに提供され、今この時も開発の歩みは止まることなく続けられております。

まとめ

 

エフェクタそのものでは音を生成することはできませんので、電子楽器の歴史の中ではどちらかというと脇役的に扱われがちです。
しかし、音響処理を担う今日の電子楽器の一部であることは忘れてはいけません。
(実際、現在のほとんどのシンセサイザーには内部エフェクタが標準装備となっております。)
また、電子楽器の歴史と深いかかわりがあることも事実です。これからも、新しいサウンドメイキングの一翼となり、私たちに未知のサウンドを届けてくれることでしょう。