1.3 日本3大メーカのそれぞれ DX7、M1、TR808

本日も「音なLABO」へようこそ

シンセサイザーの歴史ハードウェア編、第3回目となります。
前回、前々回にわたり、電子楽器とシンセサイザーの流れをエクストリームにご紹介いたしました。

1.1 テルミン~ムーグ

1.2 発音方式の違いと比較 ローズ、ウーリツアー、ハモンド
今回は、デジタルシンセサイザー登場以降の流れに関しまして、考察を行っていきます。

1 ムーグ以降の技術的な発展

ムーグシンセサイザーの登場により、シンセサイザーの構造的な主要部分が決定づけられことになりました。
(この構造は、あくまでもアナログシンセサイザーによって可能な電子構造部分となります)

電子楽器創生の当初は、電子オルガンや電子ピアノに代表される「現存する楽器の代用」もしくは「小型化」に注目が集まっていました。
特にこれらの楽器は、設計の初期段階から「ポリフォニック」による演奏が想定されていました。
しかし時が過ぎ人々は、シンセサイザーが技術的な発展と共に楽器の再現性を高めたこと、個性的なサウンドであることに着目するようになっていきます。
そうすると当然のように、シンセサイザーのポリフォニック化が求められるようになりました。

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プロフェット5 Wikipediaより

※初期のポリフォニックシンセサイザーの代表格

 

一方で、真空管からトランジスタ、そしてICへと電子素子及び電子回路の発明が繰り返されていました。
このことは、シンセサイザーに求められていた課題の一つである、ポリフォニックの実装を簡易化させました。

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PSG(Programmable Sound Generator) Wikipediaより

※音に特化したICで、これ一つでVCA、VCF、VCO、EGなど複数の役割を果たす

 

また、パラメーターを記憶させておくことができるようになり、時代はデジタル化へと進むことになりました。

2 日本三大メーカー、ヤマハコルグ、ローランド

なぜ、ここにきて日本のメーカーなのか?
それは、その後の電子音楽の方向性を決め、それぞれが圧倒的な個性を持ったシンセサイザーを開発したからに他ならないのです。
では、順を追ってご紹介していきましょう。

ヤマハ DX7


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/YAMAHA_DX7.jpg/350px-YAMAHA_DX7.jpg
DX7 Wikipediaより

シンセサイザーの歴史上、最も売れたシンセサイザーであると同時に、以降の一大シンセサイザーブームの火付け役となったのがこのヤマハから1983年に発売されたDX7です。
FM(Frequency Modulation)音源を搭載した為、アナログシンセサイザーにはなかった複雑な倍音成分を持つ音色を出すことが可能となりました。
またFM音源が奏でるきらびやかで金属的な響きは、1980年代のポップミュージックに多く取り入れられ、当時を象徴するサウンドとして現在でもとらえられています。
まさに、デジタル時代の幕開けを宣言した最も有名な一台として、今日でも語りつがれています。

コルグ M1


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M1 Wikipediaより

1988年にコルグから発売されたM1は、PCM(Pulse Code Modulation)音源を搭載した画期的なシンセサイザーでした。
PCM音源とは、平たく言うと「サンプリング」です。現代の技術では、何百種類の音をサンプリングしておくことができるサンプラーが存在しているほど、当たり前の技術です。
しかし、当時はメモリー制限などの厳しい環境下で開発されており、いくつかのサンプリングした音源をデータ化し、音程だけを変えて音にしていました。
前述のとおりこの方式は、現在まで使用されている技術の内の一つとなっています。

・ローランド TR808


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/be/Roland_TR-808_drum_machine.jpg/220px-Roland_TR-808_drum_machine.jpg
TR808 Wikipediaより

ローランドと言えばSH-101などのキーボード型も有名ですが、その後のデトロイト・テクノやハウス、ヒップホップに計り知れない影響を与えたのは名機TR808に他なりません。
1980年に発売され、のちにTR909、TB303と共に「三種の神器」として名を馳せることとなります。
実は、前述した電子楽器に求められた技術(ポリフォニックによる楽器としての操作性、パラメーターによる制御系)とそのもう一つが、「演奏の自動化」でした。
TR808には「シーケンス(音の時系列制御)」が用いられ、上記の課題を実現することとなりました。
それに加え、個性的で基本を押さえたサウンドは現在でもこぞって使用されている一つとなっています。

まとめ 

 

このように、技術的な革新の真っただ中で活躍した日本のシンセサイザー達が今日でも輝かしく歴史上に君臨していることがお分かりいただけたでしょうか?
しかし、この時代を境にハードウェアとしてのシンセサイザーは終焉を迎えていきます。
そしてコンピュータの発展と共にシンセサイザーはプログラム化され、ソフトウェアとしてDTM時代の大きな支えとなっていきました。

 

何度となくアナログシンセサイザーサウンド面での再評価や見直しは行われてきましたが、その全てはあくまでも「モデリング」に他なりません。
現在でも新しいシンセサイザーは登場しておりますが、どれもコンピュータを内蔵した形で開発されております。
それはまるで、電話としてではなく、コンピュータに電話の機能を搭載したスマホに酷似しているようです。

 

電子楽器のソフトウェア化は、電子楽器が電気的な技術に依存してきた為、ある意味では宿命であったように思えます。
こうして、シンセサイザーの歴史は新しい時代へと移行しいくのでありました。